転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


199 おトイレ革命!



 紙を作ろうとしたらできちゃったトイレットペーパーだけど、すぐに使えるかって言うとそうじゃなかったんだよね。

 と言うのも、グランリルの村って中を流れてる川から水を引いて作ったちっちゃな池を何軒かに一個作って、その上にトイレ小屋を作ってるんだけど、その池には何でも食べちゃうスライムって言う生き物が入れてあって、そいつが池のお水をきれいにしてるんだ。

 だから最初、僕がお尻ふきだよって言っても、お母さんが、

「そうなの? でもこれ、ちゃんとスライムが食べてくれるのかしら?」

 って心配されちゃったんだ。

 お母さんはそういうけど、これってセリアナの実と近くに生えてるネバネバが出る草から作ったんだから、何でも食べちゃうスライムが食べないはず無いと思うんだけどなぁ。

 でもね、もし食べなかったら大変だからって、ためしに小さく丸めたのをスライムに向かって投げてみたらちゃんと食べてくれて一安心。

 それを見たお母さんもこれなら大丈夫そうだからって、ご近所の人に使ってみない? って話してから近くのトイレに置いてみたんだ。

「このルディーン君が作ったお尻ふきってやつ、いいわね」

「ちゃんとスライムも食べてくれるみたいだし、何より柔らかいのがいいわ」

 そしたら思った以上に評判がよかったんだよね。

 その上、

「これって、赤ちゃんや小さな子の口を拭くにもいいんじゃない?」

 って話まで出てきたもんだから、みんなからもっと作ってよって言われちゃった。


 と言う訳で午後からはトイレットペーパー作り。

 ただ、いろんな使い方をするんならおっきなのを作って、使い方にあわせて切ったほうが便利だよね?

 と言う訳で僕は両手を広げるくらいの大きさの紙を作ったんだ。

 ところが、ここで問題が。

「ルディーン。これ、柔らかすぎてうちにあるナイフだと切りにくいぞ」

 作ったトイレットペーパーを何枚か重ねてお父さんに切ってもらおうとしたんだけど、いくらちゃんと研いでるって言っても皮を切る為のナイフだからこんな柔らかい紙は切れないって言うんだよね。

 それに切れたとしても抵抗が少ないからまっすぐ切りにくいんだって。

 そっか、それだったら初めからもっと細長いのを作ればいいのかなぁ?

 でも、それだと四角いのと違ってイメージしづらいから一度にいっぱい作れないし。

「うん、やっぱり紙の形を変えるより、切る道具の方を変えた方が早いよね」

 そう思った僕は早速道具作り。

「まっすぐ切れないなら、何か板みたいなので押さえたほうがいいかなぁ? あっ、そうだ! だったら真ん中にナイフを通す切り目の入った長細い板を作ればいいじゃないか」

 板で押さえれば紙が動く事無いし、切れ目に沿ってナイフを動かせばまっすぐ切れるもん!

 そう思った僕はポシェットから鋼の玉を何個か出して、頭の中に浮かんでるナイフあてを作ったんだ。

 でね、折角だから切る道具も専用のを作る事にしたんだよね。

「紙を切るなら刃は薄くないとダメだよね?」

 そう思った僕は、鋼の玉を一個だけ使って、先っぽに薄くて鋭角な刃がついたペン型のナイフを作ったんだ。

 だってこの形だったら普通のナイフより穴を通しやすいと思ったからね。


「おお、これは楽だな。板の切れ目に当てて線を引くようにするだけで紙がまっすぐに切れるぞ」

 でね、それを渡してあげたらお父さんは大興奮。

 どんどん切っちゃうもんだから、僕やお母さんが気付く前にみんなおんなじ大きさに切っちゃったんだよね。

「ハンス。全部同じ大きさにしたら、大きな紙を切る意味がなくなってしまうでしょ? 何を考えているの!」

「すまん、つい楽しくなって」

 ところが、それを見たお母さんに怒られちゃったんだ。

 それはそうだよね。だっていろんな使い方をするからいっぱい作るって話になったんだもん。

 でね、それからはお母さんがお父さんの隣でこの大きさに切りなさいって指示するようになっちゃった。

 おかげで無事、いろんな大きさの紙ができてよかったんだけど、切り終わったお父さんは、

「フゥ、やっと終わったか」

 お母さんに見られながらのお仕事が大変だったのか、こう言いながらぐったりとしちゃった。

 お母さんって、いつもは優しいけど怒ると怖いもんね。僕もやっちゃダメって言われてる事やって怒られると、いつも泣いちゃうもん。

 お父さんは大人だから泣かないけど、怖いのはやっぱり僕と一緒なんだね。


 こうしてトイレットペーパー作りは終わったんだけど、一番最初の目的だった紙はまだできてないよね。

 だってトイレットペーパーじゃあ柔らかすぎて記号なんか書けるはず無いもん。

 だから僕は次の日、朝ご飯を食べた後に資材置き場へとやってきたんだ。

 ここなら森で取れたいろんな木があるし、その中に一つくらいはちゃんとした紙になるのがあるかもしれないもんね。

 ところが、

「こんなにいっぱいあるのに、なんで?」

 使い道が違うから資材置き場の木はちゃんと種類ごとに別けておいてあるんだけど、それを端から順番に試してみても残念ながら僕が思ってるような紙が出来るのが一個も無かったんだ。

 って事は、もしかしてこの近くの木じゃ紙は作れないのかなぁ?

 あっ、そう言えばグランリルの近くの森って薬草の効果が他の森よりも高いって言うし、もしかしたらここにおいてある木も魔力で強くなってるのかも? だったら木の繊維も他の森で取れるのより硬くなってるのかもしれないよね。

「やっぱりイーノックカウに行かないとダメかも」

 そう思った僕は、一度おうちに帰ってお母さんに話してみたんだ。

「いきなりお邪魔して、ご迷惑にはならないのかしら?」

 そしたらこう言われちゃったんだけど、

「大丈夫だよ。ジャンプで飛んだらロルフさんちの人には来たよってちゃんと言わないとダメだけど、それからは僕、何度も行ってるからちゃんと1人で錬金術ギルドまで行けるもん」

「そうなの? まぁ、お金持ちの子と違ってルディーンの恰好なら1人で歩いてても危ない目に会う事は無いだろうからいいけど……でも、行くのはお昼ごはんを食べてからよ。それにいつもよりも早く帰ってくること。それでいいなら行ってもいいわ」

 ちゃんとお話したら、早く帰ってくるならいいよって許してもらえたんだ。

「やったぁ! じゃあ、お昼ご飯食べたら言って来るね。あっそうだ! 昨日作った紙もちょっと持ってっていい? ロルフさんたちに見せたらきっと喜ぶと思うんだ」

「あのお尻ふきを? 別にいいけど……おかしな物を喜ぶのね」

 お母さんは不思議そうにしてるけど、絶対に喜んでもらえると思うんだ。

 だってイーノックカウで泊まった宿屋さん、若葉の風亭のトイレは水洗だったもん。だからきっとお金持ちのロルフさんちのトイレもきっと水洗だと思うんだよね。

 でも宿屋さんにはトイレットペーパーが無かったから、きっとロルフさんたちも僕たちの村と一緒で葉っぱを使ってると思うんだ。

「葉っぱで拭くよりお尻拭きの方がいいってみんなも言ってたでしょ? ならロルフさんたちだって、教えてあげたら絶対喜ぶよ」

 僕はお母さんにそう言いながら、ロルフさんたちが喜ぶ顔を想像して楽しい気分になったんだ。



 紙の材料になるのは木ではなく、そこから取れる繊維で作ったパルプです。

 ルディーン君は知らず知らずの内に正解にたどり着いているのですが、その知識が無い為に木をそのまま使って失敗していると言う訳です。

 また、彼の前世は高校生でわら半紙の存在を知りません。その為稲や麦の藁から紙を作ると言う発想がありません。

 今はもう、わら半紙なんて見かける事は無いですからね。


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